2015年2月9日月曜日

NODA MAP公演「エッグ」感想

エッグ感想。ネタバレ。2月5日(木)
B列だから2列目かと思いきや、なんと最前列の右側でした。

この演劇は2012年の再演。
2年の間にどんどん演劇に現実が近付いていく。東京オリンピック開催など。
この演劇を、現実が追い越さなければならない。そう感じる演劇だった。

「エッグ」という架空のスポーツをめぐる物語です。 しかも、この脚本は、改修中の東京芸術劇場の天井からはらりはらりと落ちてきた、寺山修司が生前書いていた原稿、とゆう設定。タイトルは「エッグ」。勿論寺山修司はそんな原稿残していないからフィクション。でもフィクションだと念押ししてくれるのは、幕引きの直前だから、なんとなくどっちかわからないって状態で話は進んでいく。
東京芸術劇場の芸術監督・野田秀樹はその原稿「エッグ」を拾う。しかし、拾ったはいいものの、エッグは末筆で終わっている。劇中、野田秀樹が何度も解釈をし直しながら、寺山修司が描きたかった真意に近づいていく、とゆうのがこの演劇の筋立てでした。
だから、同じようなストーリーで全く意味も解釈も異なる演劇が3回ほど行われます。 物語は何度も途中でやり直され、「エッグ」という競技の代表選手たちがあらためて東京オリンピックを夢見るという形で作り変えられてゆく。 その合図は「四年経てばまた忘れるさ!」という、軍人の格好をしたチームオーナーの一言。
その最中、徐々に浮かび上がってくるのは戦争の陰。 実は「スポーツ」は隠語で「戦争」を指していることが明白になってくる。 ゲームとしての「戦場」で繰り広げられる身体表現が、最後には満州の医療チームの技術が「戦争」に利用される姿として描き変えられる。
ここで、これまで描かれてきた「エッグ」という競技の奇妙さや違和感が、ワクチン及び細菌兵器を作るための作業と符合する。
大倉孝二扮する平川という役が後藤健二さんと重なるシーンがあった。偶然にしても。誰もがリアリティーを感じてしまっただろう。
大倉の死ぬ瞬間の苦痛に満ちた顔は大倉ファンとしても衝撃だった。
ちなみに主人公の名前は、安部。ずっとアベの名前が連呼されるのも、リアルと重ね合わせてしまって意味深になる。奇妙な心地だった。
最終的に、演者の誰もが戦争の被害者として命を落としていく。
主人公の妻夫木聡は英雄に仕立て上げられ、戦火の中に取り残され、死んでしまう。 深津絵里は逃げる術があったが、その場に残って共に死ぬ。
深津絵里と妻夫木聡が死んでしまった姿を観客が見つめる時間がある。 ただただ死者を見つめるしかない、苦しい時間が、たっぷりと。
そこへ、野田秀樹芸術監督がやってきて、散らばった、権力にひねりつぶされた真実の物語を拾い上げる。
そこはとても泣けました。
冒頭からずっと感じていたことで、以前から思っていることだけど、演劇ってものすごいエネルギーの凝縮された、身体の無駄遣いだと思う。これは悪口じゃなく。 芸術がどんなに現実に一石を投じようと、杭を打ち付けようとしても、直接的に影響を与える行為にはなり得ない。勇気を与えたとしても、人はすぐ日常に埋もれてしまう。 この演劇によって、一体どれだけの人が変わるっていうんだろう。って。 芸術のもつ絶対的無用性と、この物語で死にゆく、忘れ去られる人の死、戦争の歴史が重なって、あまりにも不毛な出来事を見せつけられている感覚に陥った。これは 作家だからこその視点かもしれない。
そこへ、唯一わたしたち観客と演劇を繋ぐ、現実の芸術監督・野田秀樹がやってくる。
彼が、寺山修司が描き終えることの出来なかった原稿を拾い上げることで、何度も何度も、どんなに隠蔽されてもなかったことにされても、何度だって拾い上げる人がいるってことを感じさせてくれて、それが私にとって大きな救いになりました。
そして演者の肩に触れ、死者を生き返らせる。幕引きです。 演劇は演劇だから、何度だって、悲劇も喜劇も絶望も希望も、記録されない様々な人たちの苦痛も、演じることで拾い上げてくれる。 やっぱり演劇は身体の無駄遣いであり、非日常の身体性が日常に埋もれた意識を呼び起こしてくれる装置だなって。 演劇が好きだし、演者が好きだし、演出家が好きだな。
尊敬する。
四年経ったら忘れるって言葉も、2011年の震災を思い出さずにはいられなかった。
とてもよい演劇でした。
パンフレットと劇中歌の特別セット買っちゃいました。
毎日聴いている。ぼんやりと。
パンフレットっていうのは、なかなか中身の薄いものなのですね。
でも演者たちの言葉は、ずっしりずっしり。野田秀樹の言葉も、ずっしり。買ってよかったかと。
気になったのは、演劇人であっても、野田秀樹であっても、「絵や音楽の才能がないものですから」というへりくだり方をする。
やはり美術、音楽って、そういう存在なんだなあ。
技術、表現力。美術教育の賜物だなと感じます。悪い意味で。

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